ここのところ、会社経営者や個人事業主の方からの、倒産に関するご相談が増えていると感じています。
当事務所では、個人はもちろん法人・個人事業主の自己破産についても常時取り扱っていますが、法律相談で具体的なご事情をお聞きしている際、これは法律相談を進める上で、注意すべき点になるなと感じる例をいくつかご紹介したいと思います。
複数の会社を経営されている方
会社代表者の方が複数の会社を経営されていたり、会社と別に個人事業を営んでいるということは珍しくありません。
こうした場合で1つの会社について業績が悪化すると、別の会社や代表者の資産から経営資金が注入されるという事態が起こりがちです。それぞれの資産が厳密には誰のものか判別しづらくなっているという状態も、意図的ではないにしてもしばしば見られます。
こうしたケースにおいて、1つの会社と、その連帯保証人である経営者ご本人が自己破産しようとした場合、他の会社との間の資金の流れが問題になってきます。
破産手続上、破産会社が誰かに対して貸付をしている場合には、これをきちんと回収しなければなりませんが、破産会社の資産が他の会社に、いつ・いくら流入しているのか全く分からないという状態では、破産手続を進める上で非常に問題です。
それぞれの会社について通帳や決算書などの必要資料が確保されていることは最低限必要でしょう。
契約書や領収書など、資金の流れを確認できる書面についても出来る限り揃えておくことが、破産手続をスムーズに進めるためには大変重要です。
こうした資金の流れは、破産申立の段階で明らかにしておく必要がありますが、事前の調査が不十分と判断されれば、裁判所に納める管財予納金が通常より高くなってしまう可能性もあります。
破産費用の観点からも気をつけなければならないポイントと言えます。
やりかけの仕事(仕掛かり工事など)がある方
破産手続を進める上で注意が必要なケースの一つが、やりかけの仕事(仕掛かり工事)のある場合です。
ある日突然、進行していた工事などが続行できない状態になってしまえば、工事を発注したクライアントは経済的にも精神的にも計り知れないダメージを受けることでしょう。
破産を検討されている経営者の方も、そうした事態は出来る限り避けようと努力されていますから、受注した仕事を一通り終えた合間に破産の依頼をしたいと考えることが通常です。
ただ、やはり資金繰りが上手く運ばずに、少し続行中の仕事が残ってしまった状態で、どうしても破産を依頼せざるを得ないという事態が起こってしまう場合も起こりうるのです。
未完の仕事や仕掛かり工事がある状態で破産申立となった場合、裁判所から選任された破産管財人が、その後の方針を検討して決定していきます。
ただ、ここで一から現場の状況を調査していくようでは「一体いつ工事が再開されるのか」ということになってしまい、発注した方のダメージがさらに増大してしまいます。
発注元に対して掛けてしまう迷惑を可能な限り少なく抑えるためには、工事の進捗状況が詳しく把握できており、その詳細な資料が揃っていることが大変重要です。
工事の契約書や、代金の受け取り状況、どこまで仕事が進んでいたかを示す資料、現場関係者の連絡先や構成を記した資料などが必要です。
少し会社の規模が大きくなってくると、経営者の方が現場の進行状態を把握しきれていないということもありますから、もし破産をお考えという段階になった際には、混乱を最小限に抑えるためにも、こうした点を注意して進行状況の把握や資料の確保を進めておくようにしてください。
親族からの資金援助を検討されている方
経営が苦しく、ご親族に資金繰りのための援助を頼もうかとお考えの方もいらっしゃるかと思います。
ただ、最終的に「やはり破産したい」というお気持ちになった際、「既に親族から何度も経営のための資金援助を受けていて、もう破産のための資金援助は頼めそうもない」ということにならないようにしてください。
既に何度もご紹介しているとおりですが、会社や個人事業主が破産しようとした場合、トータルで必要となる費用はかなりの額になってくるため、決断の時期を誤ってしまうと、破産することも難しくなってしまうことがあります。
そもそもの話で言えば、こうした経営状況の打開のためにご親族の資金援助を必要とするということが、端的に言えば異常事態であると考えなければいけません。
ご親族の援助を受けて今回を乗り切りさえすれば、今後も経営を続けていくことが本当にできるのかどうか、もう一度冷静に検討していただきたいと考えています。
未回収の代金(売掛金)がある方
発注された仕事を済ませたはずなのに、クレームがついて代金を払ってもらえないという事態は、特に中小規模の事業ではよく起こることです。
もし、会社に未回収の売掛金がある状態で自己破産を申し立てた場合、その売掛金は破産手続の中で破産管財人が回収していくことになります。
場合によっては裁判を起こして回収していくという可能性もありますから、請求の根拠となる書面の資料をきちんと確保しておいてください。
もし十分な額を回収することができれば、その分、債権者の方々に配当する資金が増えることになります。
破産すること自体はやむをえない選択だったとしても、せめて配当という形で少しでも債権者に返金していけるように、可能な準備はしておいていただきたいと思います。
「まだ余裕のあるうちに法律相談を」
このように会社・個人事業主の破産は、一般的なサラリーマンの方などが多重債務となって破産する場合より、確認すべき事項が多く、必要資料も複雑になってきます。
事業を畳むということは大変重い決断となりますから、すぐに決断する必要はありません。
ただ、状態が悪化しすぎていると感じる件が本当にしばしばみられ、もっと早い段階で、きちんとした情報を得た上でシビアに廃業の時期を検討して頂きたかったと感じることが多いのです。
「まだ余裕のあるうちに法律相談を」という点を、ぜひ心に留めておいていただきたいと日々感じています。